ビジネス研究

Alipayのビジネスモデルは中国の社会インフラ革命【図解付き】

皆さんは「Alipay(アリペイ/支付宝)」をご存知でしょうか?

Alipayは、中国IT企業御三家BAT「Baidu(バイドゥ/百度), Alibaba(アリババ/ 阿里巴巴), Tencent(テンセント/騰訊)」の一角であるアリババグループのアントフィナンシャルが提供するQRコード決済アプリです。

しかしAlipayを「決済アプリ」と呼んでしまうことは気が引けてしまいます。なぜならそのサービス内容は「資産運用」「口座間送金」「オンラインマーケット決済」「信用プラットフォーム」など多岐に渡り、もはや中国の社会インフラと化しているからです。Alipayも自身を「ライフスタイルアプリ」と呼んでいます。

もともとはアリババグループの運営する中国最大手ECサイト淘宝网(タオバオワン)の公式決済サービスとして開始したAlipayが、いかにしてアクティブユーザー7億人(情報参照: PAYMNTS.com)が愛用する社会インフラアプリへと登り詰めたのか? そのビジネスモデルと戦略を紹介します。

Alipayのビジネスモデル

Alipayのビジネスモデルを図解する

今回もチャーリーさんのビジネスモデル図解ツールキットを利用させていただいています。ちなみに、チャーリーさんの「ビジネスモデル図鑑2.0」の売れ行きは好調みたいですね!最新のサービスや店舗のビジネスモデルが一目で「簡単に×深く」分かるオススメの書籍です。

さて、少し脱線してしまいましたが、Alipayアプリに関連するサービスとアリババグループについて分析した図が以下となります。

Alipayを使って店舗で支払いができるように、ユーザーはまずウォレットに元をチャージします。

 

Alipayを導入している実店舗で利用する場合
  1. 「Alipayアプリで表示したQRコードをレジで読み取ってもらう」
  2. 「レジで表示されたQRコードを読み取る」

このどちらかで簡単に支払いが完了します

また、Alipayでの決済はアリババグループが運営する様々なECサイトの決済手段として利用することができます。

膨大な購買データを活用したマーケティング戦略

アリババグループはAlipayによる決済から取得した膨大な購買データ(ビッグデータ)を分析し、自身が運営するECサイトのマーケティングや、マーケティングコンサルティング事業に活用します。

なにせアクティブユーザー数が日本の総人口の約6倍と桁違いであるため、アリババグループに集まるデータ量は世界に類を見ません。

そのビッグデータを活用して自社ECサイトの売上を伸ばし、さらに多くのユーザーの最新の購買データが集まり、常にニーズに合わせた商品を提供する…というこの永久機関のような仕組みは驚異的です。

少ない加盟店手数料で収益を生み出すAlipayの事業戦略

通常、クレジットカードや電子決済の導入店舗には数%(業種によるが3~7%)の加盟店手数料が課されます。

一方、それらの決済手段と比べて、Alipay導入店舗が支払う加盟店手数料は1.5~3.5%という低い割合でサービスを提供しています。

より多くの小売店や飲食店にAlipayが普及すればするほど、購買情報のビッグデータは膨れ上がり、より正確な戦略を導き出すことができます。そのためAlipayの加盟店手数料から利益を得られなくともアリババグループ全体で見ると最終的に大きな利益を生み出すことができます

なぜAlipayは中国の決済市場で急拡大できたのでしょうか?

それは単純にアクティブユーザーが多いからという理由ではありません。「少しでも利益を残したい」という飲食店や小売店の心理を掴んだ戦略を取っていたからです。

小売店や飲食店が決済手段を増やす目的は、顧客を呼び込んで収益増加を狙うためです。一方、その売上から加盟店手数料を泣く泣く支払っています。

1000円のランチを提供している飲食店を例にすると、1食あたりの売上は当然1000円です。しかし顧客がクレジットカードで決済した場合、5%の加盟店手数料が差し引かれます。この時点で売上は950円となります。そこから原価3割を差し引いた金額が650円となり、さらに人件費や設備代、テナント代などを差し引くと…手元に残る利益はほとんどありませんよね。

「豊富な決済手段を用意しておきたい」×「利益を残したい」という店舗のニーズを満たしたサービスがAlipayだった、ということです。

中国人観光客と共に世界中を飛び回るAlipayの拡大戦略

ここ数年、中国国外でのAlipay導入店舗数も増加しています。

Business Insiderの記事(※リンク先本文は英語)によると、Alipayは中国人観光客の観光先となるアメリカの小売店への導入を推進しています。

これは中国人観光客の増加に比例して、「中国人観光客にお金を落としてもらうためにAlipayを導入したい」という現地小売店側の需要があるためです。

同様にヨーロッパでのAlipay拡大に関する記事も存在します。

当ブログの過去記事でも紹介したように日本でのAlipay導入件数が2017年から2018年の1年間で倍増しており、Alipayで支払いができることは各国の小売店でスタンダードとなっていることが分かります。

【ソーシャルリサーチ】中国最大手決済サービスAlipayの日本侵略 Twitterリサーチ 前回の記事で、「次回のビジネスモデル研究はAlipayについて書く」とお伝えしました。 今日はまと...

社会インフラアプリAlipayが展開する各種サービス

Alipayは今やただの決済アプリではなくライフスタイルアプリとして中国の社会インフラと化しています。ライフスタイルアプリと呼ばれる所以は、Alipayがユーザーの生活を豊かにする多分野のサービスを提供しているからです。

Alipayウォレットから資産運用 できる「余額宝(ユアバオ)」

「Alipayの決済用ウォレットから資産運用ができる」サービスが余額宝(ユアバオ)です。デビットカードと紐付く銀行口座を証券口座と一体化させたようなこのサービスは中国ユーザーから絶大な支持を受けています。

余額宝(ユアバオ)の仕組みは、ウォレット残高(ユーザーの余剰資金)で投資信託商品を購入してもらい、MMF(マネー・マニー・ファンド)として証券や債券をまとめ買いするというシンプルなものです。

Alipayの「圧倒的ユーザー数」×「ウォレット残高から投資できるシンプルさ」によって莫大な運用資金(約20兆円)を集めて一括購入するため、信頼ある金融商品と見なされています。

また、「投資に回している残高はそのまま決済にも使える」という利便性も多くのユーザーから利用される理由です。

これだけの利便性がありながら、余額宝(ユアバオ)の利回りは4%という高金利である点は驚くべきことです。給与が振り込まれた当日に全額をAlipayウォレットに入金して余額宝(ユアバオ)での資産運用に回すユーザーがいるという話も納得できます。

余額宝(ユアバオ)の一人当たりの最大投資金額が制限されたことで一部ユーザーは離れましたが、その快進撃はまだ中国国内で続くでしょう。

個人の信用を数値化する「芝麻信用(ジーマ、セサミ・クレジット)」

芝麻信用は、個人の行動データに基づいて信用スコアを記録する「信用のプラットフォーム」サービスです。信用スコアという指標を用いて個人の信用を数値化し、信用スコアの高いユーザーは様々な特典を受けられます。

スコアリングには以下のような項目が利用されていると言われている。
・アリペイでの支払い履歴
・個人の学歴や職歴
・マイカーや住宅など資産の保有状況
・交遊関係など
芝麻信用にはアリペイ上の決済情報だけでなく、アリペイを運用するアリババグループのSNSサービスなどでの人間関係のデータも含まれている。また、学歴や保有不動産などのアリペイ上で把握できない項目はユーザー自らがオプトインによる入力で情報を提供している
芝麻信用は350点から950点の範囲で信用スコアを算出する。この信用スコアは以下の5つの領域それぞれの指標を総合的に計算して点数化したものである。
1. 身分特質(ステイタスや高級品消費など)
2. 履約能力(過去の支払い履行能力)
3. 信用歴史(クレジットヒストリー)
4. 人脈関係(交友関係)
5. 行為偏好(消費面の際立った特徴)

MRI 野村総合研究所 金融ITソリューション事業本部資料 – 信用のプラットフォーム「芝麻信用」

芝麻信用のユーザーはこぞって信用スコアを高めようとします。

上述した通り、ユーザーの利益になることや制度が免除になるといった日常生活上のメリットがあるからです。

例えば、中国社会ではホテルへの宿泊やシェアリングサービス(シェアバイクやレンタカーなど)を利用するためにデポジットが必要です。デポジットとは前金のことで、サービスを受けられるよう信用してもらうための与信と考えてください

デポジットはあくまで与信のために支払いますが、信用スコアの高い人は社会的に信用されているので、そもそも与信が不要なのです

デポジットを支払う必要がないことでユーザーはストレスなくサービスを享受できます。サービス提供者はユーザーの信用スコアを事前に確認できるので、デポジットという不確かな与信を受けるよりも安心することができます。(デポジットを受け取ってもキャンセルする人が一定数いるからです。)

芝麻信用はこうして「信用のプラットフォーム」を作ることで、社会全体がより快適になるような仕組みづくりをしています。スコアリング基準によって人々の行動を変えている芝麻信用の中国社会への影響力は非常に大きいです。

仮想通貨の台頭により「信用」というキーワードは「資本」と同様に社会で重要な要素になりつつあると思います。芝麻信用が個人の信用を「見える化」することで作り出す中国の信用社会の動向には今後も注目していきたいです。

まとめ

アリババグループはAlipayを中心に中国の社会構造を劇的に変えています。

日本の現状は、Alipayのような決済サービスの普及によるキャッシュレス経済に至るには程遠いですし、芝麻信用のような信用プラットフォームサービスによる信用社会(信用が数値化され、資本ではなく信用が個人の行動に影響を及ぼす社会)の実現もまだまだでしょう。

かつては中国により模倣され続けてきた日本ですが、今や状況は逆転していると思います。IT分野の技術力やサービスを社会に浸透させるマーケティング力など、中国企業のビジネスに倣うべき点は多いです。

今後も中国をはじめ海外企業のビジネスモデル研究を進めていき、当ブログでも紹介させていただきます。